これは瞬く間に拡散し、『アヴェンジャーズ』や『キャプテン・アメリカ』の俳優クリス・エヴァンスが「ゲイ・プライドとストレート・プライドが同じようなもんだという間違った意見にはがっかりする。違いがわからない人はこれを読むといい」と、自分のツイッターで取り上げてまたまたCNNなどでニュースになりました。エヴァンスは弟の俳優スコット・エヴァンスがゲイであることもあってかねてよりLGBTQ+コミュニティへのサポートを続けてきているのですが、この「ストレート・プライド・パレード」の主催団体に次のような辛辣なツイートを投げかけています。

 

ワオ! クールな取り組みだな、あんたら!! ちょっと思いついたんだが、「ストレート・プライド・パレード」の代わりにこんなのはどうだ:「子どもの頃に誰も自分の感情にどう接するか教えてくれなかったために自分自身のゲイな思いを逆にホモフォビックになることで必死に隠そうとしている」パレード、ってのは?
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 余談ですが、このクリス・エヴァンスの指摘はある実験で証明されていて、アメリカではすでにほぼ常識になっています。

 米国の学会誌『異常心理ジャーナル』で紹介された1997年のジョージア大学による「同性愛嫌悪(ホモフォビア)」に関する実験です。

 その研究結果をかいつまむと、実験は異性愛者を自称する男子学生64人を対象として実施されました。その彼らを、同性愛を著しく嫌悪する(ホモフォビックな)グループと、同性愛のことはべつに気にならないというグループに分離して調べたのです。何をどう調べたのかというと、その彼らのペニスにそれぞれ計測器を装着して、双方のグループにともに男同士の性交を描いた同じゲイ・ポルノのヴィデオを見せたわけです(すごい実験ですよね)。

 すると2グループの勃起率に明らかな差異が認められました。ホモフォビックな男子グループの80%の学生に明らかな勃起が生じ、その平均はヴィデオ開始後わずか1分でペニスの周囲長が1センチ増大。4分経過時点では平均して1・25センチ増になったというものでした。

 対してホモフォビアを持たない学生では勃起を見たのは30%。しかもその膨張平均は4分経過時点でも5ミリ増にとどまったのでした。

 つまり、ホモフォビックな人ほど、実はホモセクシュアルな感情を隠し持っている、ということです。この話は後に書くこととまた色々と関係してくるので憶えておいてください。

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 いずれにしてもこの「アイデンティティの政治」に対する反動はあらゆる分野で冗談のような形で噴出してきています。アメリカの黒人(アフリカ系国民)の苦難の歴史から学び続けようと1970年代に拡大した「黒人歴史月間(Black History Month)」に対抗して、白人であることに拘る右派からは「白人歴史月間(White History Month)」を定める法律を作れという要望が議会に出されています。3月8日の「国際女性デイ(International Women’s Day)」に対抗して「国際男性デイ(International Men’s Day)」をネット検索する人は3月に集中し、ここ10年近くその数も年々増加傾向です。

 でも、問題はそんな「冗談」とは別のところに存在します。

続く。


*本連載エッセイは、誠文堂新光社ウェブサイト内の「よみものどっとこむ」との連動企画です。

■北丸雄二
ジャーナリスト、コラムニスト、作家、翻訳家/元々は毎日新聞から東京新聞(中日新聞東京本社)に転社した社会部畑の新聞社記者で、クリントンが大統領に就任した1993年にニューヨーク支局長に着任。3年半後の96年夏に帰任を命じられたのを機に退社し、独立。その後もニューヨーク在住のまま、大統領がG・W・ブッシュ〜オバマ〜トランプと変わった2017年まで、計24年間、米国政治・社会・文化、日米及び国際関係の分野でジャーナリズム活動を続ける。18年、実母の老齢化のために拠点を日本に移し、現在は主にトランプ・ウォッチャーとしてTBSラジオやFM TOKYO、大阪MBS及びネットTVなどで米国関連ニュースを解説。一方で、英米文学、ブロードウェイ・ミュージカルや戯曲の翻訳も多く、『世界』『現代思想』『ユリイカ』などで国際情勢から映画、音楽、文芸まで各種評論も行っている。LGBTQ+関連では90年に米国ゲイ文学の金字塔と言われる『ザ・フロント・ランナー』を翻訳刊行したのを機に、新聞業務と並行するライフワークとしてエイズ問題や刻々と拡大する人権状況を取材執筆開始。ニューヨークでは日本人コミュニティ向けにHIV/AIDSの電話相談の開設・運営にも尽力する一方、97年から、日本のゲイ月刊誌『Badi』に米国を中心としたゲイ関連ニュースコラムを連載。同年6月に青土社から刊行の『ゲイ・スタディーズ』(キース・ヴィンセント他著)でも全面的な監修を担当し、ほかにLGBTQ+関連のニュースを報じるプロフェッショナルが誰一人としていなかった当時、『AERA』で「日本に向けて性的マイノリティに関する正しい情報を発信するゲイのジャーナリスト」という紹介記事も掲載された。現在、十年来の同性パートナーと5歳の黒猫とともに東京に暮らす。
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