■自分以外の者を想像することの重要性

——「Vol.3」の出版を記念して『日本のゲイ・エロティック・アート展』が銀座のヴァニラ画廊で開催されます。見どころを教えてください。

田亀:『日本のゲイ・エロティック・アート展』は今まで出してきた3冊の総まとめみたいになっています。ゲイ・エロティック・アートはダイバーシティの見本市だと思うんです。一口にゲイと言ってもどういうタイプが好きかっていうのは人それぞれ違うじゃないですか。エロティック・アートっていうのはほんとに自分の好きなものを描くもので、そこにはノイズがないんですよ。だからこの作者はこういう男が好きなんだなっていうのがダイレクトに伝わってくる。いろんな人のそういう作品が一堂に会することによって、いろんなタイプが見えてくる。

私なんかは日本社会のなかでゲイ・アーティストして悪目立ちをしてしまっているので、「ゲイ=田亀源五郎が描くような男が好き」みたいな感じでネタ的に扱われることも多いんです。そして、それを無意識に踏襲してしまっている人も少なからず見かけるんですけど、様々なアーティストが描いた様々な図像、男の理想像を見ることによって、そんな単純なものではないよっていうのがわかると思う。今まで過去何十年かけて多くの作家が自分のファンタジーを表出することで、多様な作家それぞれの作品を作ってきた。そのこと自体が、ゲイ雑誌が産んできた日本のゲイ文化の豊かさなんだよって私は主張したい。それはもうポルノであろうとなんであろうと私はとても大事なことであると思ってるので、それは感じてほしいなと思いますね。

最近は、『バディ』も休刊して、ゲイ雑誌を見たこともないっていうゲイがどんどん出てきている時代だと思います。そういう層にとっては過去の物なんていうのはどの程度興味を引くのかはわからないですけれども、私は文化っていうのは文脈を知るにこしたことはないと思っているんです。そういう意味で、『日本のゲイ・エロティック・アート』という本はたんに絵を並べるだけではなくて、それが日本の文化やゲイ文化とどう相互影響をもたらしてきたかっていうことも仮説として書いています。そういったことも含めて基礎教養的な楽しみ方もできるんじゃないでしょうか。昔はヤクザや軍人だったマッチョのイメージ像が、いつから体育会系に変わっていったのか、みたいな話をなんとなくわかってもらえると思います。

——ゲイ当事者が自分たちの歴史を知るというのは大事ですよね。物事を点でしか見ていない人が少なくない気がします。

田亀:最近、思うのは、想像力のある人と、ない人っていうのが、ゲイの中ではっきり分かれてきてるんじゃないかということです。自分以外の者を想像することができるか、できないかっていうのは、すごく大きいんじゃないでしょうか。時代が移っていったり、世代が変わっていったり、前や後ろがあるんだよっていう想像力がない人っていうのが多くなった気がして、それにはちょっとイライラしちゃうんですよね(笑)。

取材・文・写真/宇田川しい

■『日本ゲイ・エロティック・アート展』
期間:2019年3月5日(火)〜17日(日)
時間:12:00〜19:00(土・日・祝〜17:00)
場所:ヴァニラ画廊
   (東京都中央区銀座8-10-7 東成ビルB2)
料金:1,000円
   チケット購入はこちらから:https://t.livepocket.jp/e/gayero
   ※受付でのチケット販売は行っていないので要注意。
主催:ヴァニラ画廊
https://www.vanilla-gallery.com/archives/2019/20190305ab.html
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