:「あ、もしもし、お父さん?」

:「おー、元気にやってるかー? 仕事ちゃんと続いてんのかー?」

:「うん、まあまあ。あのさ、私ベネッサとオランダで一緒に暮らしてるじゃん?」

:「おーう。ベネッサも元気か?」

:「あのー、実はね、私ベネッサと結婚してるんだよね」

:「誰が? ベネッサ、結婚するの?」

:「いや、ベネッサは私と結婚してるの。分かる?」

:「ん? だってお前、そんな……そんなことできるのか?」

:「できるのよ。アメリカで届け出してるの」

:「……」

:「ま、そういうわけだから、あのー、レズビアンて分かる? ホモとかゲイは男性だけど、女性にもそういう人がいて、私がそれなの」

:「だって、おまえ……えー? 何言ってるの」

ここで私は、父は本当に知らなかったんだ……あれだけサインがあったのに……と気付きます。ここで黙ったり、余計な説明をすると面倒なことになると瞬時に考え、次の一言。

:「で、簡単に言うと、私が今、妊娠してて、まあそのうち孫が一人増えるから! 楽しみにしててね。また電話するから!」

ガチャ(というか、ピッ、か。携帯だから)。

娘が産まれる直前、39週での写真。

ふーっ! 一方的だけど、妻に押し切られた形での、父へのカミングアウトは終了。安心して妻に電話。「お父さんにとりあえず言ったから!」。妻は父が気づいていなかったことに驚きながらも、私としては、どんな形であれ、とりあえずちゃんと言えたことに満足したのでした。この時、私は36歳……。母や兄妹、親戚一同へのカミングアウトは10代後半から20代前半にかけて済ませていたので、むしろ情報が父に伝わっていないことにも驚きましたが、本当に知らなかったようです。知りたくなっただけなのだろうか……。

この電話のあと、日本に帰国した際に、さすがにもうちょっと説明したほうがいいかな? と思ったけれど、そんなに興味もなさそうだったので、あえて「レズビアン」である私を説明することもしませんでした。父としてはベネッサとどんな暮らしをしているのか、子供はどうやって作るのか、仕事はちゃんとしてるのか(こればかり聞いてくる)、そんな話しをした記憶があります。

あれから5年。今まで通り、つかず・はなれずの関係が続いていますが、電話をすれば孫の成長を聞いてきたり、日本語はしゃべれるのか、ごはんは何が好きなんだ、元気に成長しているのかと、おじいちゃんぽい質問ばかりしてきます。

ボールプールに埋もれる娘。

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