同性カップルが結婚できないのは、憲法で保障されるべき「婚姻の自由」や「平等原則」に反するとして、いよいよ2月14日、東京、札幌、名古屋、大阪の地裁に、13組の同性カップルが国を相手取って一斉に提訴する。また、バレンタインデーでもある提訴日の夜には、原告カップルたちにエールを送る応援イベントが、東京・大阪・札幌で開催される。

この「結婚の自由をすべての人に」と名付けられた「同性婚訴訟」の東京弁護団の共同代表であり、この訴訟の応援団体である一般社団法人「Marriage For All Japan - 結婚の自由をすべての人に」の代表理事でもある弁護士・寺原真希子さんに、提訴を前に話を聞いた。

『できる? できない? 同性婚』と題されたトークイベントで司会をする寺原弁護士(2018年9月)。写真提供/一般社団法人fair

──弁護士を志した動機は?

寺原:私の父親は、私が物心ついた頃から、母親に暴力をふるっていました。夜、父親が暴力をふるいはじめると、母親と私と弟で隣の家に逃げ、朝になるまでかくまってもらう……。私が大学入学で東京に出てくるまで、ずっとそういう環境でした。母親には何度も離婚してほしいと言ったのですが、私を出産したときに非正規雇用になって収入が十分でなくなっており、私たちを育てるために、離婚に踏み切ることができなかったようです。そんな母親の口癖が「精神的自立は経済的自立から」で、自立して生きていける経済力を得るようにと事あるごとに言われていました。そのことと、母親のように逃げ出したいのに抜け出せない人の力になりたい、という思いがずっとあって、弁護士を目指しました。

──弁護士になり、どのような実績を積んでこられたのですか?

寺原:「女性問題に取り組みたい」という意識は常にあったのですが、若いうちに様々な分野を勉強しておこうと思い、最初は大手の渉外法律事務所に入り、企業の合併などといった企業法務に携わっていました。その後、留学してアメリカの法律を学び、帰国後は証券会社の組織内弁護士として金融法務に触れました。そして2010年、独立をし、本当にやりたいことを中心に据えることにしたのです。

──そんな中で、LGBTのことに関わりはじめたきっかけは?

寺原:2011年に山下敏雅弁護士と出会ったことが、私の人生を完全に変えてしまいました(笑)。私は、東京弁護士会の中にある、女性問題を扱う「両性の平等に関する委員会」(その後、「性の平等に関する委員会」に改称)に所属していたのですが、共通の友人の紹介で、2011年の夏に山下さんが委員会へ来て、「LGBTとは」という話を、ほんの10分程度でしたが、してくれたのです。その話に、私は、強い衝撃を受けてしまって! 今までの自分が、あまりに無知で無関心だったこと。ゲイの知り合いはいたけれど、“多様な性”についてきちんと考えてこなかったこと。女性問題をやってきたけれど、結局自分も狭い“性”の概念にとらわれていたんだと、とても恥ずかしくなりました。でも一方で、性のあり方が自分が思っていたより広くて柔軟なことを知り、逆に、解放された感じもして。それがきっかけで「両性の平等に関する委員会」の中に、LGBTのPT(プロジェクトチーム)をすぐに立ち上げて、2012年3月には、全国の弁護士会の中で初めてのLGBTをテーマにしたシンポジウムを東京弁護士会の主催で開催しました。

2018年5月に開催されたトークショー『いる? いらない? 同性婚』で司会をする寺原弁護士。写真提供/一般社団法人fair

──同性婚訴訟を起こすまでの経緯は?

寺原:2007年に立ち上がった、LGBT(セクシュアル・マイノリティ)の問題に取り組む法律家のネットワーク「LGBT支援法律家ネットワーク」に所属する弁護士有志の中では、以前から「同性婚訴訟を」という考えはあったのですが、まだ機が熟していないのではという考慮もあり、まずは2015年7月に日本弁護士連合会(日弁連)への「同性婚人権救済申立て」を行って世論喚起を、と考えました。しかし、今現在、まだ日弁連からは結論が出てきていません。一方で、2015年11月から渋谷区、世田谷区で実施された「同性パートナーシップ証明/宣誓制度」は、その後、他の自治体にも広がり、認知も進んできましたし、アメリカや台湾でも、同性婚を認めないことが憲法違反であるという司法判断が出ています。そして何より、同性愛等の人々は結婚が認められないことで日々人としての尊厳を傷つけられ続けている。このような状況の中で、もう待っていられない、と提訴に踏み切りました。

──今回の訴訟のポイントは?

寺原:憲法24条1項で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」と定められていることから、同性間の合意は「両性」の合意ではなく、憲法が同性婚を禁止していると説明されることがありますが、これは誤りです。明治民法の時代は、個人より「家」が大切にされていて、家の中で最も権限のある「戸主」の同意がないと結婚ができませんでした。個人は尊重されず、特に女性の立場がとても弱かったのです。戦後、現在の憲法を作成する際に、個人の尊重と男女平等の実現を目的として、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」と定められました。主眼は、両当事者の「合意のみ」に基いて結婚できるという点です。また、そもそも、憲法が制定された1946年当時、同性間の結婚は想定されていなかったのですから、同性間の結婚を禁止する意図があったわけではないのです。憲法24条1項は同性婚を禁止していない。これが通説です。

このような立法の趣旨を踏まえれば、裁判所が「同性婚禁止説」をとることは、まずないでしょう。問題は、憲法は同性婚を「禁止していない」けれど、同性婚が憲法によって「要請されている」といえるかということ。今回の訴訟では、「婚姻の自由」(憲法24条1項)と「平等原則」(憲法14条)という二つの柱を立てていますが、同性間の結婚を認めることを憲法は要請しており、「婚姻の自由」と「平等原則」のどちらの側面からしても、同性間の結婚を認めていない現状は憲法違反であるという判断を裁判所は下すことになると私は考えています。

■日本国憲法
*第十四条
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。(2項以下省略)
*第二十四条
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

──弁護団の一員として、この訴訟にかける思いを聞かせてください。

寺原:私は、この訴訟を二つの側面から見ることができると思っています。一つは、同性愛等の人々にとっての意味で、もちろん、これが根幹です。つまり、結婚したいと望んでいる同性カップルや、結婚したいと思っていなくても、同性間の結婚が認められていないことによって助長されているといえる差別や偏見に晒されている人々がおかれている状況を変えていくという意味です。もう一つは、異性愛やシスジェンダーの人々にとっての意味です。つまり、日常生活において、この問題と自分自身は直接の関わりはないかもしれないけれど、差別が歴然とある社会で生きていくことに心地悪さを感じませんか? 誰かが何らかの側面ではマイノリティだったり社会的に弱者だったり社会の目によって生きにくいと感じている部分があって、その意味ではこの問題はあなたにも全く関係ないことではないんですよ? ということです。この訴訟はそのようなことを個々に人に問う裁判でもあると思っています。

裁判所も、国民・社会の意識がどうなっているかということに影響を受けます。ですので、この裁判について最高裁判所が判決を下すまでのこれから4〜5年の間で、できる限り多くの方々の理解と賛同を得られるような動きを作っていきたいと考えています。そういう意味で、この訴訟は、皆で一緒に盛り上げていく必要があります。ぜひ、裁判傍聴などにも来ていただいて、世間が強い関心を持っているということを、裁判所に示していただければと思います。

取材・文/山縣真矢

■寺原真希子(てらはら・まきこ)
弁護士(日本・ニューヨーク)。弁護士法人東京表参道法律事務所共同代表。「結婚の自由をすべての人に」訴訟東京弁護団共同代表。一般社団法人「Marriage For All Japan - 結婚の自由をすべての人に」代表理事。日本弁護士連合会「LGBTの権利に関するPT」委員。著書に『ケーススタディ 職場のLGBT』(ぎょうせい/2018年)など。

『ケーススタディ 職場のLGBT』(ぎょうせい)