古典作品を斬新な手法で新解釈する英国バレエ界の奇才、マシュー・ボーン。オープンリーゲイでもある彼の『シンデレラ』がこの秋、東京で初めて上演される。それにあたり、ドラァグクイーンであり脚本家でもあるエスムラルダさんが、この作品の魅力や見どころを紹介してくれた。

エスムラルダ(ドラァグクイーン/ライター/脚本家)

みなさん、こんにちは。アタシの名はエスムラルダ。新宿二丁目を中心に活動している、ホラー系ドラァグクイーンだよ!

突然だけどみなさんは、バレエやダンスの公演はお好きかしら?
アタシはね……どちらかといえば、苦手(おい)。セリフとか歌とか、言葉や声を使った表現が好きなので、お芝居やミュージカルはよく観るんだけど、「身体の動きだけで表現されるもの」の鑑賞の仕方がよくわからなくて、いま一つ興味をひかれないのよ……。
でも、マシュー・ボーンの作品だけは別。その存在を知って以来、日本で上演されたマシューの作品はほとんど観ているわ。だって、どれもめちゃくちゃオシャレでエロくて面白いんですもの!

ここで、ご存じない方のために、マシュー・ボーンについて、簡単に説明しておくわね。
マシューは、イギリスの、コンテンポラリー・ダンスの振付家・演出家。1980年後半から活動を始め、1992年に発表した『くるみ割り人形』や1995年に発表した『白鳥の湖』が話題となり、一躍有名に。これまでに、ローレンス・オリヴィエ賞(イギリスで最も権威があるとされている、その年に上演された優れた演劇・オペラに与えられる賞)を5回受賞したほか、30以上の国際的な賞を受賞。2001年にはイギリス王室よりOBE(大英帝国四等勲士)を、2016年にはナイトの称号を叙勲しているわ!

ちなみにマシューは、カミングアウト済みのゲイでもあるの。エルトン・ジョンといいマシューといい、イギリスの姐さんたち、ナイト叙勲されまくっててすごい。日本でもいつの日か、オープンリーなセクシュアル・マイノリティが、紫綬褒章とか国民栄誉賞を受章する日がくるかしら……。

さて、そんなマシュー姐さんの作品たちは、当然のことながら(?)、ゲイテイストに満ち溢れているわ。姐さんの出世作であり、代表作の一つともいえる『白鳥の湖』は、クラシック・バレエの『白鳥の湖』を下敷きとしつつ、男性同士の悲恋を描いており、出演者も全員男性。2000年に発表された『ザ・カーマン』は、オペラの『カルメン』をもとに、周囲の男女を翻弄する、セクシーすぎる流れ者の男がもたらす悲劇を描いた作品。
姐さん……。やりたい放題ね……。

Photograph:Johan Persson

そして、今回日本で初上演される『シンデレラ』も、ひねりがききまくった名作。
シンデレラのお話自体は、みなさん、童話やらディズニー映画やらでよくご存じだと思うけど、今まで数々のクラシカルな名作を換骨奪胎し、生まれ変わらせてきた姐さんが、そのまま作品化するはずもなく……。マシュー・ボーンの『シンデレラ』は、なんと!
第二次世界大戦中のロンドンが舞台になっているの。
大まかなストーリーは、以下の通り。

意地悪な継母や義理の姉妹・兄弟たち、車椅子の父親と暮らす、地味で冴えない女の子・シンデレラは、ある日、ケガを負ったパイロットと出会い、恋をする。そんなシンデレラのもとに、キュートな男性の天使が現れ、 彼女を変身させ、かぼちゃの馬車ならぬモーターバイクで、「カフェ・ド・パリ」というダンスホール(かつてロンドンに実在したお店)へ連れていく。そこでシンデレラとパイロットは再会を果たすが、12時の鐘が響く中、空襲が2人を襲い、シンデレラは元の姿に戻って爆弾に倒れ、病院に運ばれる。2人は再び離れ離れになり、シンデレラが残して行った片方の靴を手に、パイロットはシンデレラを探し始める――。

Photograph:Johan Persson

どう? このあらすじを読んだだけで、観たくならない? 実際、時代設定と舞台が変わっただけで、あのシンデレラのお話が、何倍もスリリングに!
また、この作品では、ロシア(ソ連)の作曲家・プロコフィエフが1940~41年に作ったバレエ音楽が使用されているんだけど、それが今回の時代設定にマッチしていて(第二次世界大戦中に作られた曲なので、当然といえば当然かもしれないけど)素敵なの!

もちろん、姐さんの振付によるダンスは果てしなく美しくかっこいいし、出演者は美男美女ぞろいだし、継母のビッチさはたまらないし、舞台装置や衣装も凝ってるし、とにかく端から端まで見どころだらけ!
さらに、ゲイキャラも登場。今作では、シンデレラに男の兄弟もいるという設定になっているんだけど、そのうちの一人はシンデレラの足フェチ、別の一人がゲイなの! 姐さん、やっぱりやりたい放題ね……。

というわけで、10月3日から、東京・渋谷のシアターオーブで上演されるマシュー・ボーンの『シンデレラ』。笑ったりハラハラしたり、ときめいたり感動したり……感情を揺さぶられまくること間違いなしなので、みなさん、三度の飯を一度に減らしてでも、観に行ってちょうだい!

●マシュー・ボーン(Sir Matthew Bouren OBE)

1960年1月13日、ロンドンで生まれる。イギリスで最も人気があり、成功している振付家、演出家。ローレンス・オリヴィエ賞を5回受賞。トニー賞最優秀振付賞と最優秀ミュージカル演出賞を受賞。1987年〜2002年、アドベンチャーズ・モーション・イン・ピクチャーズの芸術監督。2002年、ニュー・アドベンチャーズを設立。2016年にはナイトの称号を叙勲。代表作には『くるみ割り人形』『愛と幻想のシルフィード』『白鳥の湖』『シザーハンズ』『ドリアン・グレイ』『眠れる森の美女』など。
マシュー・ボーン公式サイト:http://matthewbourne.org
ニュー・アドベンチャーズ公式サイト:https://new-adventures.net

Photograph:Johan Persson

■マシュー・ボーンの『シンデレラ』

日時:2018年10月3日(水)〜14日(日)
会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ11階)
演出・振付:マシュー・ボーン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
出演:ニュー・アドベンチャーズ
●公式サイト:https://mbcinderella.com
●公式ツイッター/インスタグラム:@mbcinderella_jp