6月24日(日)にニューヨークのプライドマーチを歩いた翌日深夜、JFK国際空港を発ち、パナマを経由してひとっ飛び。南米ペルーの首都リマにやってきた。
南半球では、6月は冬。太平洋沿岸に位置するリマの冬は、東京の冬ほど冷え込むことはなく、雨が降ることもほとんどない。けれど、一日中、曇り。朝から晩まで、とにかく曇り。雨も日差しもない。空を見ているだけだと、午前なのか午後なのかも判然としない。私が滞在した1週間ほどのあいだで、日が差したのはほんの2、3時間だけだった。ある意味、安定しているとも言えるが、ほとんど太陽を拝むことのないリマの冬は、心の中にまでずっと雲が垂れ込めているようで、鬱々として、感情も内向きになっていってしまいそうだ。しかしながら、そんなどんよりとした空模様とは裏腹に、リマのプライドパレードは、エネルギーに満ち満ちていた。
6月30日(土)パレード当日。もちろん、天気は曇り。出発地点のマルテ公園には、お昼前に着いた。パレードのスタートは午後2時なのだが、その前に、同じ公園内でLGBTの交流サッカーイベントがあることを聞きつけ、リマでのホームステイ先のミナちゃん&アルちゃんカップルと3人で参加することにしたのだ。主催は、日本にも支部がある国際人権NGO アムネスティのペルー支部(Amnistía Internacional Perú)で、参加者には、サッカーペルー代表のものをレインボー仕様にした特製ユニフォームが贈られた(ちょうどロシアでW杯が開催されていた時期で、ペルーは36年ぶりに出場して大いに盛り上がったそうたが、すでにグループリーグ敗退が決まっていた)。
老体に鞭を打ち、サッカーで清々しい汗をかいたあと、パレードの出発地点に移動する。バスやトラックなど大小さまざまな車両に装飾が施され、今や遅しとスタートを待ちわびている。
出発時間が近づき、少しずつ人が集まってきて、そろそろかな、と気分も高まってきたが、いっこうに始まる気配がない。予定の午後2時をまわり、1時間、2時間……と時間が過ぎ、結局、パレードがスタートしたのは午後5時近く。約3時間近く遅れての出発。予定時間なんてあってないようなもの。だからと言って、文句を言う人はいない。日本では絶対にありえない時間感覚に、「ラテン」って、こんな感じなんだなあ、と妙に納得してしまった。
パレードのルートは、マルテ公園から旧市街の中心にあるサン・マルティン広場までの約3km。交通を規制して片側3車線の道路の一方を全て封鎖し、約30台のフロート車両が順番に進んでいくのだが、先導するフロートの後ろに人がついて歩くというよりも、数万人の群衆が大移動する、そのうねるような大きな流れの中を、まさに浮かんでいるかのように「フロート」が運航していくといった様相なのである。人々は好き勝手に歩き、なんとも無秩序ではあるのだが、みんなが目指している方向はきちんとあって、その目的地に向かって連帯し、突き進んでいく。そんな民衆の圧倒的なパワーがほとばしる、デモ行進の原点のようなパレードであった。
●リマ・プライドのフロートの数々
歩き始めて約2時間。ゴール地点のサン・マルティン広場に到着したころには、とっぷり日が暮れていた。広場には特設のステージがつくられ、立錐の余地のないほどの人で埋めつくされていた。司会者の進行にしたがって、スピーチやDJタイムが続いていく。今日一日、時間と空間を共有した者たちの緩やかな連帯感が広場全体を包み込み、テンションの高い音楽や照明、映像などがさらに高揚感を増幅させる。
明日になれば、また、それぞれの「日常」が待っている。でも、このひとときは、一人一人の存在を祝福し、一人一人の多様な生き方を肯定しよう。
リマの「プライド」は、思いのほか熱く、民衆の力が漲っていた。
取材・文/山縣真矢
■『Marcha del Orgullo Lima 2018』(リマ・プライド2018)
日時:2018年6月30日(土)
テーマ:「Educación con enfoque de género ¡YA!: Por un currículo escolar que incluya a lesbianas, gays, bisexuales, trans e intersexuales」
(ジェンダーの視点を基本にしたLGBTIについての知識を、学校のカリキュラムの中で教えましょう)
動員:約10万人
初年:2002年(毎年開催されていて、2018年で17回目)
公式Facebook:https://www.facebook.com/marchadelorgullolima
公式ツイッター:https://twitter.com/marchaorgullope