ーー杉山
11月に死亡保険金の受取人を同性パートナーにも拡大する制度スタートさせてからの反響はいかがですか?
ーー岩瀬
とてもポジティブです。特にLGBTの当事者からは「良くやってくれた」と。また、既に契約をいただいていたお客様で「受取人を両親から同性パートナーにしたい」という方もいました。アライからも「ライフネットらしい取り組み」と言われて、嬉しく思っています。ネガティブな反響はほとんどありません。
ーー杉山
そもそものきっかけは何だったのでしょう?
ーー岩瀬
2年くらい前に若手社員の有志によるプロジェクトとして始まりました。ただ、生命保険会社として組織的に対応するとなると、それなりに論点がたくさんあって。慎重な対応や検討が必要ということで、焦らずにゆっくりやろうって思っていたのですが「経営者としてそれでいいのか」という感じで何度も社内から突き上げられました(笑)
ーー杉山
制度を作る中で出てきたハードルはどうやってクリアしましたか?
ーー岩瀬
大きく分けて、ハードルは3つありました。1つは医的リスクの問題。生命保険と医療保険を扱っている我々の本業は、リスクを評価して受けるかどうかを判断することなので、医的リスクに問題ないかということ。2つ目は手続きの問題で、病院に行って面会を断られたり、診断書の提出を代理で頼んでも受けてもらえなかったりという面で大丈夫かと。3つ目は税務面ですね。法的な配偶者と比べて劣る部分について、きちんとお客様からの理解を得ることができるのかと。まず、医的リスクについては、はっきりしたデータがあるわけでもないので、我々で引き受ける契約内容や審査をきちんとやっていけば、十分コントロール可能だと。2番目の手続きについては、突き詰めると同性パートナー固有の問題ではなくて、内縁パートナーの方でもあり得る問題で、以前から我々としてもやってきたので特に新しい問題ではなく、出来る範囲でサポートをしようということになりました。税務面については継続して、僕らとしても民間の立場から主張していこうと。当初は「渋谷区のパートナーシップ証明書を条件に」という話もありましたが、お客様のメリットを考えたら居住地で限定する合理的な理由はないので、当社所定の「パートナー関係に関する確認書」をつくり、それを提出いただくことで我々に対してお約束いただくという形にしました。
ーー杉山
岩瀬さん自身がLGBTの人と関わったのはいつくらいですか?
ーー岩瀬
中学校の時の友達がゲイということを30歳くらいになってカミングアウトされました。あとは28歳で海外留学した時にクラスメートが飲み会にいつも同性のパートナーをつれてきていたので、そういうところからも身近な感じでしたね。
ーー杉山
海外にいたときに感じた日本とのLGBTに対する価値観のギャップは?
ーー岩瀬
この問題だけではなくて、いろいろな問題について海外とのギャップを感じることがありました。LGBTについても広い意味での人権意識だと思うんですよ。特に欧米社会では、そうした意識について敏感ですよね。
ーー杉山
僕自身、今回の渋谷区の同性パートナーシップ条例で検討委員会のメンバーになったんですけど、最初に検討委員会をする際、教授を招いての勉強会があったんですね。それで前もって渡されたのが、1990年代の米国の論文だったんですよ。「こんな昔のやつ読んでどうするんだ」と思ったら、90年初めに議論になっている話が日本で今議論していることだった。やっぱりこれだけ差があるんだなと思いました。
ーー岩瀬
似た話なんですが、今回の制度をスタートさせるにあたって弊社株主のスイス再保険に相談したんですよ。そしたら、幹部に「はぁ?」という顔をされて。80年代にHIVの問題があったときには、大丈夫かというような話があったけど、いまはLGBTが特別どうこう言う人なんていないという反応でした。
ーー杉山
日本でも、LGBTに関してもっとオープンになれば、潜在的な当事者に気づく人も増えると思うんです。カミングアウトされる社員とかはいますか?
ーー岩瀬
まだ100人くらいなので……。だた、サポートする姿勢を見せ続けることで、潜在的な当事者をはじめ、みんなが「らしく」仕事をできたら良いなとは思います。
ーー杉山
企業がLGBT問題に取り組む2つの理由として、1つはLGBT当事者向けの商品開発・サービスの向上、マーケットの観点があると思います。一方で社内にも必ずいるであろう、当事者の人たちの職場環境改善や福利厚生といった観点も必要になってくる。この2つを並行してやっていくことが求められているのではないかと思いますが、その点については?
ーー岩瀬
後者のほうを大切にしたいくらい。なぜなら、僕自身としては、スマートでセンスあふれる起業家精神あるLGBTの人に仲間として加わってほしいからです。もちろんビジネスとしては、保険に入ってもらいたいというのがあるんですけど、もっと社会的に必要とされていることをやっていきたい。業界内ではこの問題に真剣に取り組んでいる会社はまだないので、より本格的に先進的にやっていきたいですね。経営者としては、ありきたりな会社ではなくて世の中を変えていけるきっかけを与えていきたいと思っていますし、社会的なニーズに取り組むことで社員が会社に誇りを持てれば凄くいいことなので。今後もそういう観点からもLGBTコミュニティーの皆さんと関わっていきたいと思っています。
社内には、たくさんのレインボーグッズが。