文/エスムラルダ(ドラァグクイーン/ライター/脚本家)

2018年もあと数日。みなさんにとって、今年はどんな一年だったかしら。

 さて、時代の変わり目らしく、いろいろなことがあった2018年だけど、今年印象的だった出来事の一つが「セクシュアルマイノリティを主要な登場人物、もしくは主役に据えたTVドラマが、次々に放送された」こと。
 1月に放送された『女子的生活』(NHK総合)では、トランスジェンダー(MtF)かつレズビアンの主人公の日常生活が描かれ、1月期に放送された『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)では、まったくオネエ言葉を話さない男性同士のカップルが、準主役的な立場で登場。
 さらに、3月に放送された、田亀源五郎先生の名作漫画を実写ドラマ化した『弟の夫』(NHK BSプレミアム)では、ノンケ男性の主人公と、亡くなった双子の弟の同性パートナー(カナダ人男性)との心の交流が描かれ、4月期に放送された『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)では、不動産会社を舞台に、おっさん同士が、「月9」のようなラブストーリーを展開……。

 ほかにも、1月期の『明日の君がもっと好き』(テレビ朝日系。あの『同窓会』の井沢満先生脚本)や4月からの朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合)にも、トランスジェンダーやゲイの登場人物が主要な役で出てきていたけど、アタシが「素晴らしい」と思ったのは、やはり最初に挙げた4本ね。

 まず、『女子的生活』『隣の家族は青く見える』『弟の夫』は、MtFやゲイの登場人物の日常生活やキャラクターが丁寧に誠実に描かれていた点が、好感度大。
 過去にもセクシュアルマイノリティが登場するドラマはあったけど、「女装する、もしくは女性的な(オネエ言葉の)ゲイ」が「ヒロインの良き相談相手」や「話を面白おかしくする要員」として登場したり、性的な部分がクローズアップされすぎていたり、深刻すぎるバックグラウンドを背負わされていたり、悲劇的な結末が用意されていたり……といったものがほとんど。当たり前のようにレズビアンやゲイのキャラクターが出てくる欧米のドラマと違って、日本のドラマの中では、セクシュアルマイノリティは常に、どこか「普通の人」とは異なる世界に住んでいる人として扱われることが多かったのよね。
 なので、セクシュアルマイノリティを「どこにでもいる一人の生活者」として描いたドラマが、ゴールデンタイムに立て続けに放送されたのは、日本のドラマ史においては、とても画期的なことだったと思うの。

 でもね……。4作品の中でも特に衝撃度と興奮度が高かったのは、やはり『おっさんずラブ』かしら。
 いや、わかるのよ。『おっさんずラブ』に対して、「いかがなものか」的な意見があるのも。アタシ自身、2年前に放送された単発ドラマ版を観たときは、主人公・春田(田中圭)に想いを寄せる、部長・黒澤(吉田鋼太郎)の描かれ方に、ところどころ「うーん」と思わないでもなかったもの。
 なので、連ドラ版に関しても、最初は「どうか『あちゃー』と思うようなシーンが出てきませんように」と、祈るような気持ちで観始めたんだけど……(アタシ、誰目線?)。最初のうちは、少しハラハラしたものの、回を重ねるうちにどんどん夢中になり、最後はもうもう、号泣に次ぐ号泣。いやあ、あんなにハマるなんて、思いも寄らなかったわ。

 役者さんたちの演技力、全登場人物が愛おしく思えるキャラクター造形、ベタな月9的展開ゆえに引き込まれるストーリー、「可愛すぎる 存在が罪」「恋のオーダーしちゃおうかしら」といった、印象的なセリフの数々……。ドラマとしても面白かった『おっさんずラブ』だけど、アタシ的に「やってくれたなァ」と思ったのは、最終回。黒澤が、春田にフラッシュモブでプロポーズするシーンがあったんだけど、それを観ながら「あ! 今、『その場にいる人たちが誰一人、男が男にプロポーズすることを特別視しない世界』が、たぶん日本のドラマで初めて描かれたッ」とびっくりしたのよ。
 さらに、男子同士の恋が、視聴者全員が「成就して良かった」と思える形で描かれたのも感慨深かったわ。

 もちろん、コメディだからこそできたことだと思うし、「作り手はそこまで考えてないんじゃない?」「おとぎ話すぎる」「BL漫画やBL小説には、前からそういうのあったよ」と思う人もいるかもしれないけど、アタシは感動しちゃったの。「ああ、ついに日本で、こういうドラマが作られた」って。
『隣の家族は青く見える』『弟の夫』のように、真面目に、リアルな当事者を扱ったドラマが放送された直後に、『おっさんずラブ』のような(いい意味で)ぶっ飛んだドラマが放送されたという流れも、なんだか神がかっていて素敵だったわ。

 ちなみに、ツイッターで世界トレンド第1位になったり、数々の賞を受賞したり、「流行語大賞」にノミネートされたり、映画化が決定したり、深夜の放送でありながら社会現象にまでなった感のある『おっさんずラブ』だけど、アタシの周りにもファン多数。ちあきホイみちゃん(現在、アタシやドリアン・ロロブリジーダさんと共に「八方不美人」というヴォーカルユニットを組み、活動中←無理矢理宣伝)なんて、「これから日本のドラマは、紀元前・紀元後のように、『おっさんずラブ以前』『おっさんずラブ以後』で語られるのではないか」とさえ言っていたわ。

というわけで、今後も、セクシュアルマイノリティが当たり前のように出てくる、質の高いドラマがたくさん観られますように。そういう作品が増えることによって、世の中の価値観も、少しずつ変わっていくだろうし、自分のセクシュアリティに悩んでいる人が、自分を肯定することができるようにもなると思うのよね。まずは、2019年4月期に放送される、ゲイカップルの日常を描いた、よしながふみ先生の名作漫画『きのう何食べた?』に期待。

 それではみなさん、良いお年をお迎えください!

■2018年に放映された主なLGBT関連TVドラマ

  • 女子的生活
     出演:志尊淳、町田啓太、玉井詩織、玄理、小芝風花、羽場裕一 他/原作:坂本司『女子的生活』(新潮社)
    • 隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)
       出演:深田恭子、松山ケンイチ、北村匠海、眞島秀和、平山浩行、高橋メアリージュン、真飛聖、野間口徹 他/脚本:中谷まゆみ
    • 弟の夫』(NHK BSプレミアム)(リンク:)  出演:佐藤隆太、把瑠都、中村ゆり 他/原作:田亀源五郎『弟の夫』(双葉社)
    • おっさんずラブ』(テレビ朝日系)
       出演:田中圭、林遣都、吉田鋼太郎、眞島秀和、内田理央、大塚寧々、金子大地、伊藤修子、児嶋一哉 他/脚本:徳尾浩司
    • 半分、青い。』(NHK連続テレビ小説)
       出演:永野芽郁、佐藤健、松雪泰子、滝藤賢一、風吹ジュン、中村雅俊、中村倫也、志尊淳 他/脚本:北川悦吏子
    • 明日の君がもっと好き』(テレビ朝日系)
       出演:市原隼人、伊藤歩、森川葵、白洲迅、志田未来、柳葉敏郎、三田佳子、渡辺大 他/作:井沢満

    • ●2019年4月期放映

    • きのう何食べた?』(テレビ東京系)
       出演:西島秀俊、内野聖陽 他/原作:よしながふみ『きのう何食べた』(『モーニング』誌/講談社で連載中)
■エスムラルダ(ドラァグクイーン/ライター/脚本家)

エスムラルダ、ドリアン・ロロブリジーダ、ちあきホイみ、3人のドラァグクイーンによる、新宿2丁目発、本格DIVAユニット「八方不美人」として活躍中!

★八方不美人「愛なんてジャンク!」
【Official Music Video】 https://www.youtube.com/watch?v=4KZaRLzqUNI

デビューミニアルバム『八方不美人』絶賛発売中!

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