【インタビュー】
ハンス・フェルホーフェンさん(Hans Verhoeven/プライド・ウォーク委員会の実行委員長、「プライド・アムステルダム」アンバサダー)とサビーネ・ヒンブレレさん(Sabine Gimbrère  /アムステルダム市 国際関連部門ディレクター)に聞く。

取材・文/金 由梨

『プライド・アムステルダム』のアンバサダーであり、「プライドウォーク」委員会の委員長でもあるハンス・フェルホーフェンさん。

アムステルダム市の国際関連部門ディレクターのサビーネ・ヒンブレレさん。

『プライド・アムステルダム』は、毎年7月末から8月初めにかけて、オランダ・アムステルダム市で行われる大規模なプライド・イベントです。昨年は50万人を動員し、毎年規模が拡大しつつあります。1994年にスタートし、今年で23回目を迎えた『プライド・アムステルダム』の初日に開催される「プライド・ウォーク」の実行委員長であるハンス・フェルホーフェンさんと、アムステルダム市の国際関連部門ディレクター、サビーネ・ヒンブレレさんに、これまでの歴史についてお話を聞いてきました(2度開催されていない年がある)。

 

金:アムステルダムのゲイ・プライドの変遷について、お話を聞かせてください(*この記事での「ゲイ」はLGBTを含む広い意味で使用している。また「プライド」は性的マイノリティのパレード等を含むイベントの呼称として世界的に認知されている)。

ハンス:1990年代にはさまざまなイベントが企画されました。1994年には『ユーロ・プライド』、1998年には『ゲイ・ゲームズ』(4年に1度開催されるゲイのオリンピック)。多様性、インクルーシブへの気運が高まってきたのです。80年代から始まったアムステルダムのゲイ・プライドは、今ではオランダ国内で最大のイベントに成長しました。昨年の動員数は50万人を超えました。

サビーネ:アムステルダム市はゲイ・プライドの発展を見守ってきました。現在では数あるパートナーの中でも最大のパートナーです。イベントに関する場所を提供したり、その許可を出したり、イベント期間中は市内の大部分の交通閉鎖をします。このような管理もすべてアムステルダム市が行っています。すべては安全にイベントを運営するためです。最高に楽しむためには、まず安全の確保が最重要です。

金:アムステルダムのゲイ・プライドは、毎年7月の最終土曜から8月の第1日曜までの期間に行われます。最大のお祭りは8月の最初の土曜日に行われる運河のパレード(Canal Parade)です。その他、期間中はさまざまなストリート・イベントも盛りだくさんですね。期間中の前半は、さまざまなワークショップも開かれます。

ハンス:そうなんです。プライドは祝い、楽しむためのイベントですが、それだけだと楽しんでおしまいです。実は2000年に入ってからのパレードは、お祭り色が濃いイベントになりつつありました。2001年には同性婚も合法化され、LGBTのコミュニティーはこれまで以上に盛り上がりました。同性婚が合法化したあとで、私たちは「これで戦いは終わった」と思っていました。しかし、私が2010年からイベントに関わるようになってから、楽しいだけではなく、もっとコンテンツが必要であることに気が付いたんです。少数派の人たちだけで騒いで、楽しむだけではいけないと。2010年からは、もっと一般の人たちや若い人たち、LGBTではない人たちにもメッセージを発信する必要があると感じました。今パレードに参加している人たちはLGBTの人たちだけではありません。一般の人も多様性とインクルーシブを尊重し、祝うためにパレードに参加していますよ。

サビーネ:アムステルダム市は多様性とインクルーシブを尊重する市です。このメッセージを世界中に発信していくために、「プライド」は最高のプラットフォームだと考えました。LGBTの人たちだけではなく、世界中のみなさんにアムステルダムを知ってほしい、訪れてほしいという思いもあります。先ほども申し上げた通り、安全なイベント運営のために市と運営委員会との協力はとても重要です。市が動くことによって、教育・文化・科学省や財務省も巻き込むことができました。それとアムステルダム市はパレードやイベントに参加される外国の来賓などの手配もしています。

金:実行委員会とアムステルダム市の結びつきが、安全でスムーズなイベント運営を可能にしているのですね。ちなみに運営規模(資金)はどのくらいになるのでしょうか?

ハンス:120万ユーロ(約1億5,000万円)です。ただこれは実行委員会単位での予算で、このほかにもイベント期間中はさまざまな企業や団体が投資します。経済効果で見ると、この予算の何倍ものお金が流れる計算になります。

金:すごい規模ですね。これをすべてボランティアで運営されているのですか?

ハンス:実行委員会では、2.5人のスタッフに給料が出ていますが、それ以外はすべてボランティアです。ボランティアは約600人程度でしょうか。

サビーネ:警察や消防など、市のスタッフも入れると全体で2,500人規模です。

金:まさに、実行委員会とアムステルダム市が一緒に動くことが、イベント運営の成功と成長に貢献しているのですね。

ハンス&ザビーネ:そうなんです。

ハンス:ここ数年は、ゲイやレズビアンなどが文化的にタブーな国々の「プライド」にも参加してきました。ウクライナのキエフ、トルコのイスタンブールなどです。

サビーネ:アムステルダムの副市長も同行しました。

ハンス:こういった国々ではパレードに参加すること自体が、身の危険を冒す行為です。こういった状況は看過されてはならない、声をあげていかなければならないと考えています。

金:来年はぜひ、東京の「プライド」にも来てください!

ハンス&ザビーネ:ぜひ実現させましょう!

サビーネ:実は11月に、東京都が主催する『グローバル・パートナー・セミナー』に参加するんです。都庁にも行きますよ。

金:本当ですか? 小池百合子都知事に『東京レインボープライド』を支援するように伝えてください!

サビーネ:(笑)小池都知事に会えたら、絶対に伝えておきます!

 

あとがき

私自身は今年、日本から遊びに来ていた母と、私のパートナー、2歳半になる娘と運河パレードの見物に行き、楽しい時を過ごしました。今回のインタビューは限られた時間の中で、これまでの「プライド」の流れを聞く、貴重な体験でした。これからはお祭りだけではなく、もっとワークショップなどいろんなイベントに参加してみようと思います。2010年からオランダに住んで、イベントが年を追うごとに大きくなっていくのを見てきましたが、これも偶発的な出来事ではなく、アムステルダム市、企業、ボランティアが一つになってイベントの企画と運営をしていること、イベントをもっと世界に発信していこうという目的意識の共有のたまものなのだなと、お話を聞いて感じました。今回のお話から、東京レインボープライドが学べるヒントをいくつかいただけたのではないかと思います。

また機会を見て、オランダのLGBT事情を発信していきたいと思います!

金 由梨
東京都台東区出身。2009年にエラスムス大学大学院留学のためオランダに移住。2010年に同性パートナーとワシントンDC(アメリカ)で結婚。現在アムステルダム在住。29か月になる娘の子育てに奮闘しつつ、アムステルダム自由大学大学院にてHRマネージメントを勉強中。