『光州クィア・カルチャー・フェスティバル 2018』リポート

2000年にソウルで始まった韓国のプライドパレード『クィア・カルチャー・フェスティバル』。この7月に開かれた『ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバル』には、パレードなど関連イベントを含めて約12万人が参加し、当事者グループ、NGO、企業、世界各国の大使館など100以上のグループがブースを出展した。東京レインボープライドは「TOKYO NO HATE」とコラボして、毎年ブースとフロートで参加している。

この「プライドパレード」の流れは韓国の地方都市にも広がりつつある。2009年の大邸(テグ)を皮切りに(記事リンク:https://trp2019.trparchives.com/magazine/wppreport/6154/)、2017年からは釜山(プサン)、済州(チェジュ)、そして今年2018年には全州(チョンジュ)、仁川(インチョン)でも始まった。

しかし、反対派の妨害も激化しつつある。

9月8日(土)に行われた仁川のパレードは、保守プロテスタントを中心とした1,000人もの反対派に襲撃された。会場を占拠した彼らは、ブースのテントや備品を破壊し、暴行を振るうばかりか、近隣のビルの屋上から参加者の顔を盗撮し、パレード参加者を取り囲んでパレードを5時間にわたって妨害するなど乱暴の限りを尽くした。

 

『仁川クィア・カルチャー・フェスティバル2018』の動画

 

 

5時間にわたる激しい妨害があった仁川のパレード。パレードコースに座り込みをして妨害をしている。
写真提供/中村貴寿

 

日が暮れてからも激しい攻防は続き、結局、パレードは100mくらいしか歩けず解散。
写真の左下、おそらく当事者であろう、耳を指で塞いで目を閉じている青年の姿に、いたたまれない気持ちになる。
写真提供/中村貴寿

 

そんな激しい妨害があった仁川パレードの翌月、韓国の南西部最大の都市、光州(クァンジュ)で初めてとなるプライドパレード、『光州クィア・カルチャー・フェスティバル』が10月21日(日)に開かれた。会場となったのは「5.18民主広場」。

今年、日本でも公開された韓国映画『タクシー運転手乾〜約束は海を越えて〜』(公式サイト:http://klockworx-asia.com/taxi-driver/)は、1980年5月に起きた光州民主化運動がテーマになっているが、軍が、民主化を求めてデモをする人々に向けて一斉射撃を行い、多くの人々の血が流れたその歴史的現場が、この日、レインボーフラッグで埋め尽くされた。

 

「5.18民主広場」を埋め尽くしたレインボーフラッグや各都市のパレードのフラッグ。
後ろにあるのは1980年の光州民主化運動のときに市民軍が最後まで立てこもった旧全羅南道道庁。
(現国立アジア文化殿堂/ACC)

 

「民主化の聖地だからこそ、人権を守るためのイベントを開くにふさわしい」という主催者側に対して、キリスト教の保守プロテスタントを中心とした反対派は「民主化の聖地でいかがわしいイベントを開くとは何事か」と激しく反発した。

 

旧全羅南道道庁に掲げられた反対派の横断幕「民主の聖地・光州で同性愛者文化祝祭とは何事か!」

 

午後1時から始まったイベントには30以上のブースが出展し、1,500人もの人が広場に集まった。ステージ上では様々なパフォーマンスに加え、参加者たちがアピールを行った。光州から東に60kmほど離れた順天(スンチョン)からやって来たという高校生は「ソウルのパレードには遠くていけない、光州でパレードをやると聞き、ゲイの友達4人を誘って参加した」と語ってくれた。

会場はとても穏やかな雰囲気に包まれていたが、一歩外に出れば、暴力は振るわれないものの、大勢の反対派に取り囲まれるという、鳥かごに入れられたような状態となった。会場は鉄柵と1,500人もの警察に守られ、入口ではパレードのボランティアが、会場内に侵入しようとする反対派を選り分け、追い返していた。

反対派は1ブロック離れたところにステージを組み、「国家人権政策毒素条項撤廃、クィア集会反対国民集会」という大げさな名前の反対集会を繰り広げた。そちらの参加者は8,000人。プロテスタント系の新聞に至っては、主催者発表と断りつつも3万人が参加したとの見出しで記事を掲げた。

2011年に制定された「光州市学生人権条例」には、こんな条項が含まれている。

第20条(差別されない権利)学生は性別、宗教、民族、言語、年齢、性的指向、身体条件、経済条件、成績などの理由で差別されず、平等な待遇と学びを享受する権利を持つ。

 

彼らはこの条例に、性的指向による差別禁止条項が含まれていることに対して、「宗教的表現の自由が制限される」との理由で、この条項の撤廃を訴えているのだ。

宗教的信念に動かされた彼らは、パレードに激しい妨害を行った。

パレードが始まったのは午後3時だったが、出発直後にストップしてしまった。反対派が、先導車の前に次から次へと横たわったりパレードに突っ込んできたりして、執拗な波状攻撃を仕掛けてきたからだ。そのたびに、警察が排除するものの、次から次へと現れる反対派に警察もヘトヘトな様子だった。わずか200mを進むのに20分もかかり、結局コースを変更して裏道への迂回を余儀なくされた。筆者は、反対派に携帯電話を奪われ踏みつけられそうになったが、幸いにして警察とパレードのボランティアの協力で取り返すことができた。

 

会場に押しかけパレード参加者の通行を妨害する反対派。

 

路上に寝転がりパレードの進行を妨害する反対派。

 

このように反対派の活動は活発だが、性的マイノリティへの韓国社会の見方は反対一色というわけではない。

韓国の世論調査会社が昨年行った調査では、性的マイノリティの就職差別には90%が、性的指向を理由に解雇することには81%が反対している。一方で同性婚はこの16年間で倍増したとはいえ、賛成は34%にとどまっている。しかしながら、20代は66%が賛成しており、つまり、性的マイノリティの権利回復は時間の問題で、反対派は「最後のあがき」をしているということだ。

 

取材・文/植田祐介

 

 

■『光州クィア・カルチャー・フェスティバル 2018

期間:2018年1021日(日)13:00〜(パレード 15:00〜)
テーマ무지개로 발광하다!
           光州、虹で発光する!
参加者:約1,000
公式Facebookhttps://www.facebook.com/gjqueerculturefestival/