こんにちは。ティーヌです。
初めての方がほとんどだと思いますので、少し自己紹介をさせてください。
「読書サロン」という、LGBTの登場する小説を応援する会を、6年ほど主宰しています。TRP(東京レインボープライド)では、紀伊國屋書店新宿本店さん、ららぽーと横浜店さんで開催した『LGBTを知る100冊!』、丸善ジュンク堂書店渋谷店さんでの『LGBTを考える70冊!』の選書を担当しています。
2018年も、もうすぐ終わりそう、と言うことで、今年刊行されたLGBT関連本をいくつか紹介したいと思います。
地方自治体の同性パートナーシップ制度のニュースにも、もうそんなに驚くことがなくなりましたね。
「はやく自分の住む自治体でも実施されないかな」とか、「パートナーシップ制度があるのに、肝心のパートナーが居ない」とか、「制度がちょっと変われば、自分も利用できるのにな」とか、着実に、当事者の未来予想図が、変わってきているような気がします。
「ウェブマガジンLGBTER」によるインタビューをまとめた本『LGBTと家族のコトバ』(双葉社)は、そんな、今どきの、LGBTをとりまく悩みを取り上げています。
2007年に発売された、当事者と家族・先生との往復書簡『カミングアウト・レターズ』(太郎次郎社エディタス)では、既存の人間関係の中での、葛藤と和解というテーマでした。今後も、ほとんどの当事者が異性愛の両親から生まれますので、この悩みはずっと無くならないでしょう。
最近は、特に、LGBT当事者も、当事者で無くても、自分に合った家族像を創造してゆくことが、多くの人を悩ませているようです。
『LGBTと家族のコトバ』の中で、インタビューに答える当事者やその家族の真摯な姿が、きっと、あなたの未来の選択肢を広げてくれるでしょう。
6月に刊行された、岡部鈴さんの『総務部長はトランスジェンダー 父として、女として』(文藝春秋)も、社会を構成する一人の人間として、自分の中で良いバランスを見つけて生きている著者による、体験記です。
これまでのキャリアや人間関係やなにやら、いろいろなものを、いろいろな局面に合わせて、調整しようとする柳のような強さは、ジェンダーやセクシュアリティー関係なく、現代人に求められるスキルだと思います。ビジネス本としても最適なのでは!
「LGBTって知っていますか? LGBTの友達がいますか?」という局面を大きく乗り越えた、今年らしい、2冊だと思います。
さて文芸では、2018年、3つの大きな動きが印象的でした。
キーワードは、「PRIDE叢書」「台湾」そして「百合」。
今年、サウザンブックスさんから、LGBTがテーマの本が2冊、刊行されました。サウザンブックスは、クラウドファンディングで資金を募って、海外の本を翻訳出版している出版社です。その中で、「PRIDE叢書」というシリーズが設立されました。「セクシュアル・マイノリティが誇り高く生きていくための世界の本を出版していくシリーズ」とのこと。
第一弾に発売されたのが、スペインのゲイ小説、マイク・ライトウッド『ぼくを燃やす炎』。ゲイの高校生オスカルは、親友に恋心を告白したことで、学校中にアウティングされてしまう。家では父親から暴力、学校では片思いの相手から酷いいじめを受ける、そんな彼を支えてくれたのは、他者への信頼だった。
第二弾は、レズビアンの両親をもつ子どもの視点で日常を描く絵本、パトリシア・ポラッコ『ふたりママの家で』。特別な事は何も起こらない。ひとつの家族の記録。
さて、私の期待は、『ぼくを燃やす炎』の続編です! 主人公オスカルのいじめの主犯、ダリオの物語。どうしてダリオは、オスカルからの好意を、完全に否定しなければいけなかったのか。ああ、読みたい。早く翻訳されないかなあ。そのためにも、まだ『ぼくを燃やす炎』読んでいない人は、ぜひ手に取ってみてください!!
ヤングアダルト、絵本に続いて、ちょっと急に濃いめになりますが、第60回群像新人文学賞優秀作、李琴峰さんの『独り舞』(講談社)が単行本として発売されました! わー。ぱちぱち。
台湾の田舎にいても、台湾の最高学府台北大学に在学していても、憧れの日本に逃げてきても、居場所の無い、迎梅(インメー)。彼女の、身体と精神の旅のはてに、光を見つけられるのか。作品中に、ゲイシーンの一つとして、TRPパレードも登場します。パレードが、これからもずっと、迎梅のような人たちの心休まる場でありますように。
ちなみに李琴峰さんのサイトでは、単行本になっていない作品も読めます。
それから、俄然気になるのが、名古屋の出版社あるむ社の「台湾文学セレクション」というシリーズです。
これまでに、洪凌『フーガ 黒い太陽』、胡淑雯『太陽の血は黒い』、蘇偉貞『沈黙の島』の3冊が刊行されており、11月に、郭強生『惑郷の人』が発売されました。
私はまだ最初の2冊しか読んでいませんが、書籍紹介文を読む限りでも、全部、ジェンダー/セクシュアリティー/アイデンティティーがテーマとなっている小説のようです。やや、作品社の「台湾セクシュアル・マイノリティ文学」シリーズに続くやつですかね! さあ、積ん読必須!! 今買っちゃおう!
ここまで書いといてなんですが、2018年最大の大事件は、まだ、起きていないのです。
文学シリーズとか紹介した後に続くのは、まあ、文芸雑誌とかですよね。
そう、12月25日発売予定の、早川書房「SFマガジン2019年2月号<百合特集>」
まだ、表紙画像と目次しか確認していないんで、ほんと、何も言えませんが、私は、宮澤伊織『そいねドリーマー』(早川書房)発売記念イベントでこの情報を聞いてから、ずっとずっと、楽しみにしていました。ほんと、待ってた! 発売日は、待っていれば必ず来るんですね。
「百合ってあれだよね、BLの女版のことだよね」と思った方は、必ず、以下のリンクの記事を読んでください。2018年の百合の話を、素晴らしく総括してくださっています。
Hayakawa Books & Magazines(β) 百合が俺を人間にしてくれた――宮澤伊織インタビュー
なんと、SFマガジン2019年2月号は、予約殺到のため発売前に増刷とのこと。
これでもう、2019年には、「百合の読者に、女は少ない」とかふざけたこという出版関係者が居なくなり、都市部の書店には必ず「百合」棚ができ、Amazonにも「コミック」「BL」に並び「百合」カテゴリーができるのだろうと思うと、本当に、嬉しい限りです。
ということで、以上、2018年を印象づける書籍をご紹介しました。
少しでも気になった本がありましたら、ぜひ、おやすみの日に、ぱらぱらとめくっていただければと思います。
それでは、みなさま、良いお年を!
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、ノンセクシャル、アセクシャル など、セクシャル・マイノリティと呼ばれる人々が登場する小説を応援する会、読書サロンを主宰。月に1回、都内で読書会を開催。次回は、2019年1月19日。2019年に読む11冊の課題本をみんなで決めます。
■2018年に刊行された主なLGBT関連書籍
- 『「ふつう」ってなんだ? LGBTについて知る本』
殿ヶ谷美由記(著)、Rebit(監修)/学研プラス - 『僕は私を生みました。』
GENKING(著)/双葉社 - 『ぼくを燃やす炎』(PRIDE叢書)
マイク・ライトウッド(著)、村岡直子(訳)/サウザンブックス - 『スピン』
ティリー・ウォルデン(著)、有澤真庭(訳)/河出書房新社 - 『野蛮なアリスさん』
ファン・ジョンウン(著)、斎藤真理子(訳)/河出書房新社 - 『独り舞』329
李琴峰(著)/講談社 - 『トランスジェンダーと現代社会』
石井由香理(著)/明石書店 - 『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック』
東優子(著)、虹色ダイバーシティ(著)、ReBit(著)/日本能率協会マネジメントセンター - 『カミングアウト』
砂川秀樹(著)/朝日新書 - 『LGBTを知る』
森永貴彦(著)/日経文庫 - 『LGBTと女子大学』
日本女子大学人間社会学部LGBT研究会(編集)/学文社 - 『そうだったのかLGBT』
一般社団法人LGBT理解増進会(著)/エピック - 『性の多様性ってなんだろう?』
渡辺大輔(著)/平凡社 - 『総務部長はトランスジェンダー』
岡部鈴(著)/文藝春秋 - 『オレは絶対にワタシじゃない』
遠藤まめた(著)/はるか書房 - 『ぼくがスカートをはく日』
エイミ・ポロンスキー(著)、西田佳子(訳)/学研プラス - 『カミングアウト〜LGBTの社員とその同僚に贈るメッセージ』
ジョン・ブラウン(著)、松本裕(訳)/英治出版 - 『セックスワーク・スタディーズ』
SWASH(編集)/日本評論社 - 『ぼくのはじめてゲイ婚活』
飯田ヒロキ(企画・原案)、晴川シンタ(著・イラスト)/KADOKAWA - 『新宿「性なる街」の歴史地理』
三橋順子(著)/朝日選書 - 『変化球男子』
M・G・ヘネシー(著)、杉田七重(訳)/鈴木出版 - 『ふたりのママの家で』(PRIDE叢書)
パトリシア・ポラッコ(著・イラスト)、中川亜紀子(訳)/サウザンブックス - 『ゲイだけど質問ある?』
鈴掛真(著)/講談社 - 『ケーススタディ 職場のLGBT』
弁護士法人 東京表参道法律事務所(編著)/ぎょうせい - 『窓をあけて、私の詩をきいて』
名木田恵子(著)/出版ワークス - 『LGBTと家族のコトバ』
LGBTER(著)/双葉社 - 『教養のためのセクシュアリティ・スタディーズ』
風間孝(著)、河口和也(著)、守如子(著)、赤枝香奈子(著)/法律文化社 - 『惑郷の人』(台湾文学セレクション)
郭強生(著)、西村正男(訳)/あるむ - 『にじいろのしあわせ〜マーロン・ブンドのあるいちにち〜』
マーロン・ブンドとジル・トウィス(作)、EGケラー(絵)、服部理佳(訳)/岩崎書店 - 『日本のゲイ・エロティック・アートVol.3:ゲイ雑誌の発展と多様化する作家たち』
田亀源五郎(編集)/ポット出版 - 『永遠ていう安室奈美恵なんて知らなかったよね。』
アロム奈美江(著)/リットーミュージック - 『ぼくは、かいぶつになりたくないのに』
中村うさぎ(著)、こうき(イラスト)/日本評論社